君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
さあっと風が木立を揺らした。



「…こんなところ、あったんですね」

「すぐ近所だろ、来たことないのか」

「駅の方にしか行かないので…」

「もったいない」



大きな川に流れこむ支流で、今は黒くしか見えない水面が、控えめな街灯を反射している。



「昔、よくこういう川で遊んだのを思い出す、ガキの頃だけど」



珍しい、新庄さんが自発的に自分の話をするなんて。



「ご実家、どこですか?」

「神奈川」

「えっ、横浜の家って、実家ですか?」

「違う、実家は小田原。今はひとり」



ああ、びっくりした。

新庄さんが実家暮らしとか、イメージと合わなすぎる。


新庄さんは、夜空にふーっと白い煙を吐いた。



「イベント、盛況だったな」

「はい、ありがとうございました」

「任せて正解だった」



その言葉はうれしいけど。

もう二度とサポートに入ることはないと言われたようでもあって、素直に喜ぶことができない。


そろそろ行くかと言われて、どうしようもなく寂しくなって、やっぱり乗らなければよかったとか思っている自分に、またうんざりした。

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