君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
狭い給湯室はふたり入るといっぱいで、動けるスペースがほとんどない。

さらに逃がすまいとでもするように、新庄さんがシンクの縁に手をついて、私を見下ろした。



「私…」

「疲れが取れていないなら、出てくるな。今日は急ぎの仕事もないだろう」

「…そんなに、わかりますか?」

「さあ、ほかは気づいていないかもしれないけど」



そんなことどうでもいいだろ、と吐き捨てる。

新庄さんだけが、気づいてくれたんだろうか。


ゆうべ、ひとりで耐えるしかなかった恐怖と心細さと、一晩中緊張していた疲れとで、もう限界で、新庄さんの顔を見つめているうち、涙がこぼれた。



「大塚…」



新庄さんが目を見開く。

いたたまれなくなって私は下を向いた。


職場で泣くなんて、みっともない。

許せない。


今声を出したら、情けなく震えるに決まっていたから、なにも言えなかった。

唇がわななくのを隠したくて、両手で顔を覆うと、新庄さんが手首を取って、それをはずさせる。



「話せ」



覗き込む顔は心配そうで、私の両手首をつかむ手は、優しい。

< 60 / 126 >

この作品をシェア

pagetop