君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「昨日、あの後」



呼吸が定まらず、思うように話せなかった。



「…郵便受けが、開いていて」



新庄さんの顔つきが険しくなる。


「手紙が、全部…開封されていて」



思い出す、あの衝撃。

郵便受けの中を見られたな、となんとなく感じることはあったけど、こんなことは初めてだった。

これまでこそこそと隠れていた誰かが、いきなり大胆に自己主張しはじめたように感じて、そのエスカレートぶりが怖かった。



「中身も、たぶんわざと、汚されていて」

「汚されて?」



涙で濡れた顔が熱くなる。

口には出せないようなもので汚れていたので、とてもじゃないけど説明できない。


もう気持ち悪くて気持ち悪くて、手を洗って、洗って、洗って、何十分もシャワーを浴びながら、身体中こすった。


だいたい察しがついたんだろう、新庄さんの手に力がこもる。



「大塚、今日はもう帰れ」



私は首を振った。

あの部屋に帰って、一人でいるなんて、考えただけでも吐きそうだ。



「…会社にいる方が、いいんです」

「じゃあ定時までがんばれ。そうしたら明るいうちに帰るんだ」



定時になったら帰らなくちゃいけない。

そのことを思うと、パニックを起こしかけた。



「嫌です…!」



手を振りほどこうとするけれど、離してくれない。

むしろさらにきつく掴まれて、その熱で少し我に返った。



「俺も一緒に帰る、いいな。部屋までちゃんと送り届けてやる。とにかく身体を休めるんだ」


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