君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
新庄さんの懸念は的確だった。

私はマンションを目にした瞬間に動けなくなり、自分がいかに楽観的だったか思い知った。


突然立ちどまった私に、うしろを歩いていた新庄さんがぶつかる。


足が震える。

周りを確かめたいけど、なにも見たくない。


悔しい。

どうして、こんな目に遭わなきゃならないの。

どうして新庄さんに、こんなみっともない姿を見せなきゃならないの。

悔しい。


部屋に入ると、当然のことながら出ていった時のままで、ほっとした。



「大丈夫そうか?」



たたきに立ったまま、新庄さんが声をかけてくる。



「はい」



少し笑顔を返す余裕もある。

うん、本当に大丈夫そうだ。



「課長から、今月中に代休を取らせるように言われてる。明日は休め」

「ご自分こそ取らなくていいんですか、代休」



しゃれにならないほど、たまっているくせに。

私が口答えしたことに安心したのか、新庄さんもふっと笑った。



「俺も取るよ、明日は休みだ」



よかった、新庄さんにこそいい加減、身体を休めてほしい。



「できたら大塚には、木曜くらいまで休んでもらえると助かるんだが」



労務がうるさくて、と顔をしかめる。



「調整してみます」

「そうしてくれ、じゃあ」



片手を振ると、新庄さんは部屋を出ていった。

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