君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
当の新庄さんは、ベンチでコーヒーを飲みながらパンフレットを眺めている。
連れてきておいて、なんの会話もない。
この人の、この沈黙が怖くなくなったのはいつからだったろう。
考えごとをしているとき、ただぼんやりしているとき、忙しく考えをめぐらせているとき、いつしかそういう区別がつくようになってきた。
たった二ヶ月前なのに、サポートに入るという宣言に凍りついたのを、遠い昔に感じる。
「さて、飯でも食いに行くか」
どうやら今日はとことん引っ張り回してくれる気らしい。
私が帰るのを怖がったことを、覚えてくれているんだろう。
実際、部屋にいるよりこうして出かけている方が、ずっと気持ちが楽だった。
なにを食べたいか聞かれて考えているうちに、いいアイデアが浮かんだ。
こうなったらとことん甘えてしまおう。
「あのですね」
「うん」
「ドライブがいいです」
新庄さんは完全に虚を突かれたらしく、ぽかんとする。
「今日、車でしょう?」
「なんでわかった?」
やっぱり。
待ち合わせたときに新庄さんに気づかなかった理由が、服装のほかにもあることに気づいたのだ。
「改札と逆の方向から来たので」
「そりゃ…」
「もっと言えば、キーホルダーがうしろのポケットから覗いてます」
思わず、という感じで新庄さんがジーンズのうしろに手をやる。
乗せてもらっているうちに気づいたんだけど、新庄さんは家の鍵と車のキーを分けるタイプだ。
車のキーには、単独で革のキーホルダーをつけている。
車でもないのに、わざわざキーだけ持ってこないだろう。
女ってほんと怖いよな、という気になる台詞は聞かなかったことにした。
連れてきておいて、なんの会話もない。
この人の、この沈黙が怖くなくなったのはいつからだったろう。
考えごとをしているとき、ただぼんやりしているとき、忙しく考えをめぐらせているとき、いつしかそういう区別がつくようになってきた。
たった二ヶ月前なのに、サポートに入るという宣言に凍りついたのを、遠い昔に感じる。
「さて、飯でも食いに行くか」
どうやら今日はとことん引っ張り回してくれる気らしい。
私が帰るのを怖がったことを、覚えてくれているんだろう。
実際、部屋にいるよりこうして出かけている方が、ずっと気持ちが楽だった。
なにを食べたいか聞かれて考えているうちに、いいアイデアが浮かんだ。
こうなったらとことん甘えてしまおう。
「あのですね」
「うん」
「ドライブがいいです」
新庄さんは完全に虚を突かれたらしく、ぽかんとする。
「今日、車でしょう?」
「なんでわかった?」
やっぱり。
待ち合わせたときに新庄さんに気づかなかった理由が、服装のほかにもあることに気づいたのだ。
「改札と逆の方向から来たので」
「そりゃ…」
「もっと言えば、キーホルダーがうしろのポケットから覗いてます」
思わず、という感じで新庄さんがジーンズのうしろに手をやる。
乗せてもらっているうちに気づいたんだけど、新庄さんは家の鍵と車のキーを分けるタイプだ。
車のキーには、単独で革のキーホルダーをつけている。
車でもないのに、わざわざキーだけ持ってこないだろう。
女ってほんと怖いよな、という気になる台詞は聞かなかったことにした。