君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)


「へえ、鬼の新庄と組むの」



同期の石本彩(いしもとあや)が、おもしろそうに声をあげる。

お互いタイミングが合えばランチを一緒にとる仲で、今日は数ブロック足を伸ばして、新しくできた中華のデリにやって来た。



「初めて?」

「だね、チームで一緒に動いたことはあったけど」

「楽しみじゃん」

「あの仕事の速さに、ついていける気がしない」

「恵利(えり)なら大丈夫だって。鬼とはいえいい男と組めるのは、おいしいと思おう」



そういう問題じゃない気がする、とこぼすと、まあまあ、と彩が軽く言う。



「できる人と組むと、学べること多いよ」

「まあね」



ガラスケースの中に並ぶ色鮮やかな惣菜を見つくろいながら、うなずいた。



「そういう楽しみは、ある気がする」

「それより、イベントの方向転換? の方が大変そうだね」



好き放題盛ったプレートを手にした彩が、席につきながら同情してくれる。

そうなんだよ、とため息が出た。


こういうことは、イレギュラーながらもたまに発生する。

準備期間が減る分、当然ながらスタッフの負担は増える。

急ぎの発注は費用もかさむ。

どうやったってもう直せない印刷物もあるし、大がかりなディスプレイ設備などは、引き返すロスがあまりに大きい。


そのあたりの帳尻を合わせながら、クライアントの意向を汲んだ新しい企画を作らなければならないのだ。

そしてそのイベントのほかにも、仕事はある。


今後の慌ただしさを想像すると、プレートをつつく手も勢いがなくなった。

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