君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)

「好きなんだ、ドライブ?」

「大好きです」



夜景の見えるコースでとリクエストしたら、新庄さんは少し考えて、よし、と車を出した。



「それも前の彼氏の影響?」



新庄さんに彼氏とか言われると、動揺して目が泳ぐ。

というか覚えていたのか、前に言ったこと。



「まあ、そうですね」

「なに乗ってたんだ」



さらに動揺する。



「…同じです、これと」



ごまかすこともできず、正直に応える。

新庄さんもうまい返事が思いつかなかったらしく、へえ、と言ったきり黙った。


ターボらしい、重みのあるエンジン音を響かせて、車はハイペースで走っている。

ナビも使わずに、夜景を楽しめて、かつ快適に走れる道を選んでいるのがわかる。

横浜に住んでいるなら、このへんは庭みたいなものなんだろう。



「犯人って、心あたりないのか」



話題が唐突だったので、なんのことか思いあたるのに少しかかった。

ストーカーのことだ。



「ない、ですね……」



言われてみれば、そもそも『誰が』について考えたことがなかった。

だって、そんなことをしそうな人なんて知ってるわけがない。



「あ、元彼は、違いますよ。そういうタイプじゃないです」

「でもどう考えても、知り合いの可能性の方が高いよな」



それはそうだ。

でも秀二はそこまで私に執着してない。

そのくらい、わかる。



「新庄さんのときは、誰だかわかったんですか?」

「いや、気がついたら終わってたから」



いいな、と不謹慎にも思ってしまった。

気がついたら、終わっててくれたらいい。

なにもなかったみたいに、元通りの日常に戻れたらいい。



「その代わり、車のいたずらが始まったんだ」

「いつ頃ですか」

「一年はたってない」



同じ犯人なんだろうか。

新庄さんもきっと今、そのことを考えている。

< 80 / 126 >

この作品をシェア

pagetop