君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「好きなんだ、ドライブ?」
「大好きです」
夜景の見えるコースでとリクエストしたら、新庄さんは少し考えて、よし、と車を出した。
「それも前の彼氏の影響?」
新庄さんに彼氏とか言われると、動揺して目が泳ぐ。
というか覚えていたのか、前に言ったこと。
「まあ、そうですね」
「なに乗ってたんだ」
さらに動揺する。
「…同じです、これと」
ごまかすこともできず、正直に応える。
新庄さんもうまい返事が思いつかなかったらしく、へえ、と言ったきり黙った。
ターボらしい、重みのあるエンジン音を響かせて、車はハイペースで走っている。
ナビも使わずに、夜景を楽しめて、かつ快適に走れる道を選んでいるのがわかる。
横浜に住んでいるなら、このへんは庭みたいなものなんだろう。
「犯人って、心あたりないのか」
話題が唐突だったので、なんのことか思いあたるのに少しかかった。
ストーカーのことだ。
「ない、ですね……」
言われてみれば、そもそも『誰が』について考えたことがなかった。
だって、そんなことをしそうな人なんて知ってるわけがない。
「あ、元彼は、違いますよ。そういうタイプじゃないです」
「でもどう考えても、知り合いの可能性の方が高いよな」
それはそうだ。
でも秀二はそこまで私に執着してない。
そのくらい、わかる。
「新庄さんのときは、誰だかわかったんですか?」
「いや、気がついたら終わってたから」
いいな、と不謹慎にも思ってしまった。
気がついたら、終わっててくれたらいい。
なにもなかったみたいに、元通りの日常に戻れたらいい。
「その代わり、車のいたずらが始まったんだ」
「いつ頃ですか」
「一年はたってない」
同じ犯人なんだろうか。
新庄さんもきっと今、そのことを考えている。