君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
そうしているうちに、開けた場所で車が駐車スペースに入った。



「着いたぜ、一度降りよう」



降りてすぐに、私は声をあげた。



「わあ、壮観!」



頭上で、巨大な橋が優雅にライトアップされている。

夜だからか、埠頭という立地のせいか、風がだいぶ強まっていた。


首に巻いていたストールを広げてくるまる。

この風の中、新庄さんは器用に煙草に火をつけて、おいしそうに吸っては煙の筋を吐き出している。


完全に、デートコースだな。

恋人同士みたい、なんて浮かれた発想はさすがにないけれど、こういう場所に男の人と来るのは、やっぱりドキドキして楽しい。


新庄さんはと見ると、フロントタイヤの横にしゃがんで車をチェックしていた。

そばに寄って彼の見ている辺りに目を凝らすと、ボディに筋状のへこみができている。

サイドミラーの下だ。



「昼間の光だと、わからないんだよな」



ため息をつきながら立ち上がる。

駐車場のライトで見つけたらしい。


傷んだ箇所をじっと見ながら、無言で煙草をふかす。

腹を立てているのか悲しんでいるのか、表情がなくて、今は心の中が読めない。



「新庄さんって、なにを考えているかわからないときがあります」



ん、とこちらを見る顔は、少しばつが悪そうだった。



「よく言われる」

「彼女にですか」



思いきって水を向けてみると、意外にも新庄さんはこだわりなくうなずいた。



「そう。『なに考えてるかわからない』『冷たい』が、2大別れの台詞だな」



指を折りながら、無頓着に語る。

2大って…いったい何人いたんだ。

< 81 / 126 >

この作品をシェア

pagetop