君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「『車と私とどっちが大事なの』は?」
「近いのは、あった」
「近い?」
「『車と結婚すれば』的な」
おもしろくなさそうに言うので、思わず笑ってしまう。
そんな台詞を吐く女が実際にいるとは。
「私は言いませんけど、そんなこと」
言ってから、これじゃまるで立候補だと思ったけれど、時すでに遅しだ。
けど新庄さんは、そりゃ助かる、とげんなりした声で言うだけで、私の小さな焦りにはまったく気づいていないようだった。
すっかり自意識過剰だな。
なんだか自分にあきれて、白く輝く橋を見上げる。
今日の新庄さんは饒舌だ。
私を元気づけようとしてくれているんだろうか。
それとも、それもただの自意識過剰で、オフの日はいつもこんな感じなんだろうか。
「腹、すかないか」
「もう少し、大丈夫そうです」
じゃ移動するか、と促され車に乗り込む。
湾岸線を東に数十分走って、次に新庄さんが車を停めたのは、光の粒を固めて作ったような夜の空港だった。
ターミナルビルで軽い食事をして、その後すぐに帰ることもできたけれど、私がもう少し夜景を見たいと言ったら新庄さんは快く応じてくれた。
湾岸線をさらに東に進み、都内の埠頭で降ろしてくれる。
埠頭内の公園は、静かでしんみりと綺麗だった。
「あれ、なんですか? あの明るいの」
「トゥインクルレースだろ」
「…なんですか?」
「ナイター競馬」
競馬場って、あんなに綺麗なのか。
見とれていると、突風に煽られて、肩にかけていたストールが飛びそうになった。
間一髪のところで新庄さんが捕まえ、もう一度ふわりと肩に巻いてくれる。
お礼を言おうと顔を見上げて、ふと思った。