君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
代休が明けて、ずいぶん久しぶりな気分で出社をした。
「おはよう、よく休めた?」
口々に言われ、おかげさまで、と返事をする。
課長の席で、新庄さんと林田さんが顔を突き合わせているのが目に入った。
珍しい、朝からあの三人で話し合いなんて。
PCを起ち上げてメールを確認する。
休み中にも携帯から確認だけはしていたので、新規のメールはほとんどなかった。
始業の直前に、課長が全員に声をかけた。
「まだ来てない人もいるけど。とりあえずいる人だけ、制作ルームに集まって」
何事かという空気が、フロアに流れる。
アシスタントさんたちも含め、すでに出社していた十数名ほどが、ぞろぞろとフロア内の部屋に集まった。
小さな部屋なので、私と何人かは立ったままだ。
「始業時刻になったら辞令が出るから、その前にみんなに言っときます」
課長の切り出しに、胸騒ぎがした。
「今日付けで、新庄くんがマーケティングユニットへ異動になります」
今日!
ざわっと全員がどよめいた。
「来週いっぱいは引継ぎということで残ってもらうから、安心してね、じゃあ新庄くん」
促されて、新庄さんが話しだす。
「急な異動で迷惑をかけます。私の後任は林田さん。来週は向こうとこちらを行き来することになるので、よろしく」
林田さんは課長とキャラがかぶるので若干不安がありますが、と新庄さんが言うと、会議室が爆笑の渦に包まれた。
大丈夫だよ!と張りきる林田さんの声がする。
年次は新庄さんより上である林田さんの昇格に、がんばれーという声も飛んだ。