君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
午後は、先日のイベントの報告書を持って本間さんを訪れた。
地下鉄にひとり揺られながら、何度この路線を新庄さんと往復しただろう、と思い返す。
新庄さんは、私のことをどう思ってるんだろう。
私は、あの人をどう思ってるんだろう。
あの人は、私がどう思ってると思ってるんだろう。
最後の問いに関しては予測がついた。
たぶん、なんとも思ってない。
鈍い、とは少し違うんだけれど、新庄さんにはあきれるくらい物事に頓着しないところがある。
彼の中で「どうでもいい」と決めているポイントがあるみたいで、それらに関しては徹底的に無関心を貫く。
周りにどう思われているか、というのも、そのひとつ。
上司として慕っていることくらいは伝わってると思うけれど、それ以上はきっと、彼の意識の範疇にない。
残りふたつの答えは…わからない。
たぶん私は新庄さんを好きなんだけど、じゃあどうなりたいのかと言われると、それがよくわからない。
しいて言えば今のままがいい。
私の上司でいてほしい。
でも来週の今日が、新庄さんの部下でいられる最後の日。
会社に戻ると、新庄さんが席にいた。
手が空いていそうだったので、送別会の日程を決めようと、都合のいい日を聞きに行く。
「来週後半だと、ありがたいかな」
「お店のリクエスト、ありますか?」
「いや、とくにない。任せる」
「じゃ、煙草だけですね」
新庄さんが、驚いたような顔でこちらを見た。
全面禁煙の飲み屋なんてほぼないので、そういう意味じゃない。
部長も課長も吸わないため、部署全体の飲み会では、なんとなく禁煙が暗黙の了解になることが多い。
なので席を離れて煙草を吸える場所があるお店を探します、という意味で言ったのだ。