君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
当人である新庄さんには当然伝わったようで、さすが、とうれしそうに目を細めた。

胸の辺りがぎゅっと痛む。

こんな、あなたのことわかってますみたいなアピール、今さらしてどうする。

いいコンビとか言われて、舞い上がってるの?


バカみたいだ。

この人は私を見てなんか、いないのに。



三日も休んだせいか、金曜日というのに妙に力があまった状態で帰途についた。

とはいえ心の中はぼろぼろで、週末に向けての展望なんてなにもないまま、最寄り駅の前のコンビニに立ち寄っていつもの買い物をした。

翌朝のヨーグルトと、適当な夜食。


マンションのエントランスに入って、郵便受けを見た瞬間、立ちすくんだ。

開いている。

恐怖よりも怒りが先に立って、ポストを力任せに殴った。

よりによって、今日。


誰だか知らないけど、今はあんたのことなんか考えてる余裕、ないんだよ。

私になにをしたいの、なにを伝えたいの、なんで私なの?


──あんた、誰よ!


こんな卑怯な人間に生活を脅かされているのが、バカバカしくて悔しくて、泣いてやるのももったいない。

怒りで恐怖が薄れているのをさいわい、開封済みのダイレクトメールを共有のゴミ箱に突っ込んで、部屋に上がった。





どれだけ放心してたんだ。

翌日の土曜日、私は会社に向かっていた。

社用携帯を忘れてきたことに、ゆうべ気づいたのだ。

こんな失敗は、四年間働いていて初めてのことだった。


いつ仕事の連絡が入るかわからない。

週末の間じゅう会社に置きっぱなしにするのは、さすがに不安だった。


土曜というのに、エントランスを行き来する人はそこそこいる。

エレベーターで上がると、うちのフロアは誰もいなかった。

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