君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「あった、あった」
机の上を探して、書類の間に挟まっていた携帯を見つける。
ついでにメールをチェックしようとPCを開いた時、フロアの電気がぱっとついた。
仰天して入口の方を見ると、同じく仰天している新庄さんと目が合う。
「なに、やってんだ?」
「新庄さんこそ……」
前にもこんなやりとりをした気がする。
新庄さんも思い出したらしく、苦笑した。
「意外なところに出没するな、大塚は」
人を熊みたいに。
「携帯忘れちゃって、取りに来たんです」
「俺は残務処理だ。引継ぎにちょっと手間取りそうだから」
私の横を通り過ぎて自分の席に向かう。
新庄さんのデスクは、だんだんと荷物が片づけられて、無人の席みたいになってきていた。
「なにか、あるんですか」
新庄さんのスーツ姿を指して尋ねると、ああ、と返ってくる。
「向こうの部長と、会うことになってて」
私は返事が声にならなくて、無言でうなずいた。
新庄さんはPCの起動を待つ間に、引き出しの整理を始めている。
「異動のお話、いつ聞いたんですか?」
「月曜」
では本当に急な話だったのだ。
月曜といえば、私が給湯室で泣いた日だ。
あのときはもう知ってたのか。