君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「もう少し、見てやれるつもりだったんだけどな」
小さく息をついて、ケースに入った自分の名刺をぽんと机に放る。
それは、私を?
それとも、チームを?
人事異動は管理職の間で決定されるので、基本的に本人の意思は関係ない。
新庄さんも、異動自体はともかく、このタイミングでというのは本意じゃないんだろうか。
「でも、おもしろそうですね、精鋭部隊って感じで」
「どうなんだろうな」
そう言う目は、どこか遠くを見て、武者震いでもするかのように鋭い。
なんだかんだ言って、仕事人として刺激を楽しんでしまうくせがついているんだろう。
寂しいけれど、その姿は見とれるほどかっこいい。
「じゃあ、お先に失礼します」
手早くメールをチェックしてPCを落とし、バッグを肩にかける。
ん、と言いかけた新庄さんの声の調子が、急に険しくなった。
「それ、どうした」
「え?」
新庄さんの視線をたどって、はっと自分の右手を見る。
手の甲に五センチほどの傷があった。
昨日郵便受けを殴ったとき、名札を差しこむ突起で切ってしまったのだ。
応えあぐねていると、新庄さんが立ち上がってこちらに来た。
「なにか、されたのか」
「いえ違います、違います。これはその、郵便受けに、ぶつけて…」
なんとか心配させないような説明をしようとしたけれど、郵便受けと言った時点で失敗だった。
新庄さんの声が低くなる。
「また、あったのか、昨日か」