君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
「大塚さん、カメラマンの小林さんがアポなしでいらしてるけど、行ける?」
「え! はい、行きます」
今大塚が参ります、と高木さんが受付に伝えてくれる。
小林さん、もう外出できるくらい元気になったのか。
事故があったと聞いてから、もう一ヶ月近くになる。
一度お見舞いの電話をして、それきりだったことを思い出した。
できれば新庄さんにも同席してほしくて、受付フロアに下りる間に携帯を呼び出すけれど、出ない。
受付横の待合スペースに行くと、以前と変わりない小林カメラマンの姿があった。
こういう職種の人にありがちな年齢不詳の外見で、推測では私と新庄さんの間くらいの歳だ。
「いきなりごめんね、近くまで来たから」
「お元気そうで、安心しました」
フロア内にあるカフェへ案内する。
社員証でドリンクを買うことができる、軽い打ち合わせスペースにもなる場所だ。
「新庄さん、離れちゃうんだってね」
席に着くなり、小林さんは残念そうに言った。
「ああいう、企画にも営業にも長けてる人って、貴重なんだけど」
砂糖とクリームをたっぷり入れたコーヒーをすすりながらつぶやく。
「大塚さんも、寂しくなるね」
「後任があのキャラなので、寂しがっている暇もなさそうです」
軽口を叩いて顔を上げたとき、小林さん越しに、数席を隔てたところにいる新庄さんを見つけた。
お互い下座にいるので、ここからは背中しか見えない。
対面には見たことのないビジネスマンふたり。
隣には、明るめの髪を背中にたらした女の子。