君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
別れ際の談笑の中、新庄さんと女の子の声だけがやたら耳につく。

階段にたどり着く頃には小走りになっていた。


新しい同僚?

部下?


ゼロからスタートする新しい部署で、その人と、いろんなことを共有していくの?

私の知らないところで。


嫉妬という言葉が浮かんだけれど、どうも違う気がした。

でもそれも悪あがきなのかもしれないと気づいて、自分が嫌になった。


こんな状態でデスクには戻れず、階段の中ほどに腰をかける。

少し頭を冷やそうと膝を抱えたところに、声がした。



「なにやってるんだ」



飛び上がる勢いで驚いた。

新庄さんが階段の下から見上げている。


そうだった、彼はフロアの移動は階段だ。

どうしてそのことを考えなかったのか、自分のうかつさに腹が立つ。


急いで立ち上がり、残りの階段を上がろうとして、結局新庄さんも同じ方向に行くのだと気がついた。



「ちょっと、休んでました」



逃げるのをあきらめて、説明する。



「なんだ、大丈夫か」



新庄さんはゆっくり階段を上って、私と同じ段まで来た。

私は仕方なく、並んで階段を上がる。



「電話、小林さんの件か? 出られなくて悪かった」

「そうです、急にいらしたので」

「そうか、ちょうど会えてよかった。飲めるくらい元気なら、もう大丈夫だな」



穏やかに笑う。

いつも通りだ、最後の日なのに。

あたり前だ。

異動くらいでいちいち感傷的になる人がいたら、その方が鬱陶しい。


ワンフロア分上がったところで、じゃあな、と新庄さんが離れていった。

そうして私の知らないオフィスへと向かう。

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