君しかいらない~クールな上司の独占欲(上)
私はもうワンフロア分を上りながら、湧き上がってきた激しい感情を冷静に見つめていた。

たしかにこれは、嫉妬じゃない。

だって周りの人なんか、どうでもいい。


ただ、そばにいたいだけ。

新庄さんのそばにいたいだけ。


新庄さんの一番近くにいるのは、私でなきゃ嫌。

それだけ。


これが「好き」ということなら、そうなんだろう。




遅刻者、欠席者なしという送別会の状況が、新庄さんの人望を物語っていた。

老舗の鶏料理屋の、ゆったりした座敷で、20名あまりが食べて飲んでいる。


新庄さんは中央の席で、部長と向かい合って鍋をつついていた。

隣の課長はすっかりできあがって、ひっきりなしに新庄さんにビールをつぐ。

その反対の隣は、別れを惜しむ部員が入れかわり立ちかわりグラスを合わせに訪れる。


幹事である私は、末席で忙しくしていた。

とりあえず中央の席にお酒と食べ物が切れなければよしと、目を走らせる。


新庄さんのいる宴会は珍しい。

たいてい早めに帰ってしまうので、こうして次々とグラスを空けている姿は、とても珍しい。

場が盛り上がっているのを確認して、自分も食事を取ることにした。



「あれ、新庄くんいないよー?」



課長の声に、そちらを見る。

たしかに、いない。

そういえばしばらく前から、声を聞いていないかもしれない。



「探してきます」



よろしくっと声をかけるわりには、課長はすぐに部長と話し込みだし、もうなにを頼んだか忘れているようだった。

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