うな金
土用の丑の日


金の宝。私は今、お宝を眠りから呼び覚ます。お重の蓋を両手で開けるのだ。丼の蓋を、粋に片手で開けるのもいい。そこから零れる、香ばしい匂い。湯気が晴れると見えしは、我が待ち人。威風堂々と白米に寝そべり、我を見上げん。箸なんぞいらぬ。飛び込みたい。身を、この身を、寄り添わせてやりたい、お鰻様に。あゝ、いつも興奮のあまり自我を見失うが、ここは居住まいを正し、割り箸を割ろうではないか。ほら、割り箸も気持ちいいくらい、綺麗に割れた。そっと、鰻の身に箸を落とす。力など要らない。タレが染み込んだ白米と一緒に、口に運ぼう。なんとも言い難い、柔らかな甘辛さが、人生と折り重なり、きっと私は心の涙を流すことだろう。あゝこれが幸せというもの。鰻が私に与えてくれる、至福という…。


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