うな金


去年は[水春]で、お弁当を予約した。食べに行くよりは割安だけれど、ここの鰻重弁当は、なかなかボリュームがある。


朝に予約して、夕方取りに行った。


冷めると嫌だから、家までわずか8分の道のりも、発泡スチロールで保温するという用意周到さ。


テーブルで配給する。


「さ、頂きましょう‼」


恭しく蓋を開ける。


緊急事態は早くも発生した。


「なんか、薄くね?」


まだ食べてもいないうちから、息子が言った。


味が薄いのではない。


「そう、ね…」


鰻というより、穴子?


色が薄いのだ。


とりあえず食べてみたが、色そのまま。


要は、夕方の予約なのだが、あまりに注文が殺到するので、朝からの作り置きなのだろう。保温をし続けた結果、蓋の裏に水分がたまり、それが鰻に染み込み、味が薄まったのだ。


はっきりいって、クソまずい。


え?どうしたかって?


もちろん、クレームの電話を入れたが、今日ばかりは仕方がないだろう的な強気な態度。


丑の日は鰻屋を強くするらしい。


だから私は近所の電信柱という電信柱に貼り付けてやった。


[作り置きの水春‼]


結果、潰れたのは、私のせいじゃない。


お客をなめているからだ。


心から鰻を愛する、お客を。


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