カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「インクにつけながら」? っていうことはボールペンでもなければ万年筆でもないわけね。
一体あの壁側のガラスケースにはなにが陳列されていたかしら?
その疑問が視線に表れていたようで、神野さんは私がなにも言わずとも、その女性たちに聞こえないくらいの声で説明してくれた。
「きっと、ガラスペンですね。この間、私が接客した記憶ありますから」
「ガラスペン……」
そっか。そういう商品も、オシャレ雑貨を主とするメーカーが販売してるわね。
ちらっとしか見たことないけど、いろいろな軸のカタチ、模様で確かに女性受けしそうだったわ。
「夏は風鈴に似た風合いのせいか、よく売れるんです。メーカーも欠品状態で」
そんなに売れてるの? 今まで自社のものと、他社の商品でもウチで作っているのと同じようなものにしか詳しく見ていなかった。
「すみませーん。これ、欲しいんですけど」
「あ、はい。どちらでしょうか」
ちょうど言葉を言い終えた神野さんをそのお客さんは呼んだ。
スマートに接客をして、指定された商品の在庫を手にした神野さんはレジへとお客様を案内していく。
誰もいなくなったショーケースに近付いて、ガラス越しにそのペンと向き合った。
へぇ……確かにかわいいデザイン。それに値段も手頃ね……。
でもさすがにガラスの材質でボールペンとか万年筆とかは……面白いとは思うけど、きっと書くためじゃなくてコレクション用になっちゃう。
スケルトン素材を活かしたら……?
今度、神宮寺さんに相談してみようか……。デザインは……生意気な要にでも相談し――。
自然と考えていた中で、二人の名前があがったことに気がつくと思考が止まった。
「阿部さん、すみません途中で」
「いえ……。神野さん、今度のターゲット、“女性”に焦点をあてようかしら」
「女性ですか?」
「偏見かもしれないけど、でも実際データにも、やっぱり女性より男性の方が高級筆記具って受けがいいのよ。でも、そこをあえてチャレンジするのも面白い結果になるかもしれない」
手を口元に添えて、「んー」と考えたあとに神野さんが笑顔になる。
「……なにか、ヒントあったんですね?」
「小さな思いつきよ。でも、なんにも前進しないよりずっといいわ」
「じゃあ、楽しみにしてますね」
再びお客さんに声を掛けられた神野さんに笑顔で合図をする。
螺旋を描くように、ガラスの軸にのせられた緑や青の涼しげな色が、少し私の気持ちを上げてくれた。