カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
よし。コーヒーでも飲んで早く帰ろう。
このいいモチベーションが冷めやらないうちに。
自然と笑みをこぼしつつ、数日ぶりの喫茶店へと入る。
カラン、と音を立てて扉をあけると、そのまま私はいつもの指定席に腰を掛けた。
「コーヒーください」
カバンの中から手帳とペンを取り出しながら、カウンターに立つ店員に注文した。
シンプルなデザインのキャラメル色をした、安いボールペン。
それを手帳から抜き取って、余白の部分に思いつくままペンを走らせる。
別に自分の仕事は、本格的な企画や開発をするわけじゃない。
けど、だからといって、せっかく普段は関わることのない仕事の機会に、『私は関係ありません』と丸投げするのはいやだから。
ある程度のコンセプトとかイメージとか、そういうのを伝えて、協議を重ねていいものを作りたい。
そうして出来上がったものを店頭で見ると、やりがいを感じる。
「お待たせしました」
「あ、はい」
コーヒーを横目に、キリのいいところまで、とメモし続ける。
頭の中のものを全て書きとめ、「ほっ」と一息つく。あれだけ立ちのぼっていた湯気が、今はもう微かにしかないコーヒーに手を伸ばし、口をつけようとしたときだった。
――カチャン! と思わずソーサーとカップが派手な音を立ててしまう。
弐國堂を出てからは忘れていたけれど、気にしていた携帯電話。
それが今、カバンの中で小さく振動しているのに気がついたから。
昨日は、帰ってからあのままずっと寝てしまっていた。
深夜に目を開けると、電池が切れていることに気がついて、充電しながらすぐに電源を入れた。
――もしかして、あいつからなにか連絡があったかもしれない。
そんなことを柄にもなく思って。