カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
ぼんやりと、アイスコーヒーを持つ手に昨夜の記憶を重ねていると、いつの間にかそのグラスが空になっていた。
慌てて顔を上げて、目を丸くしながら聞き返す。
「はっ? 『行く』? ……ってどこへ……」
「デート」
「デ!!」
「他に何の『用』があるってんだよ?」
状況についていけない私を尻目に、私の分の伝票まで手にしてすたすたと会計へと持っていく。
「じっ神宮司さん! 自分のは自分でっ……」
慌ててカバンを手に、神宮司さんを追いかける。
けれど、「またのご来店をお待ちしてます」との店員の声に間に合わなかったことが確定した。
隣に立った私を見下ろして、神宮司さんは意地悪い笑みで言う。
「阿部なら、こういうのされると“借り”が出来たと思うんじゃない?」
……さすが、昔の私と四六時中いただけある。簡単に私の気持ちを予想するんだから。
いや、あの頃から変わってない私に原因があるのかも。
「“アタリ”だ」
「……ええ、アタリです。だから、ちゃんと払いますから」
手早く財布を取り出して小銭を出そうとすると、「いいって」と神宮司さんが私の手首を掴む。
「いえ。よくないです、私が」
可愛げなくそう反発して、出入り口付近で攻防していると、カラン、と扉が開いた。
手を掴まれたまま、私と神宮司さんはその音に振り返る。