カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
それは、どういう意図があっての言葉(サイン)なの……?
目覚めたら隣がもぬけの殻だった、ということへのあてつけ?
私ばかり“してもらう側”で、自分はなにも得をしなかったから「まだ頭が重くて冴えない」って言ってるの?
それらに反論はないけれど……。
神宮司さんと休日に二人でいる状況を目の当たりにしたっていうのに、至って冷静に、笑顔まで浮かべて話せる余裕があるんだから、私になにかを求める必要なんてないんでしょ。
結局、“一夜だけ”っていうのでアタリ。
――――よかった。
舞い上がったり、馴れ馴れしく彼女のような振る舞いなんてしなくて。
強がって、そう思おうとするのと裏腹に、ちくりと罪悪感を感じてしまう。
「……では、また。来週中にご連絡差し上げますので。よろしくお願いします」
ちらりと横目で私を見た神宮司さんが、明るくしっかりとした口調で挨拶すると、「行こう」と先導するように扉を開けた。
「……失礼、します……」
要とすれ違いざまに、たどたどしくひとことだけ言うと、振り返らずに店を出た。
「神宮司さ、あっ……」
少し先をゆっくりと歩く背中を見て、声を上げたのと同時にカバンから手帳が落ちた。
「あ……すみません。さっき急いで仕舞ったものだから……」
すぐに手帳を拾い上げ、神宮司さんの足元へと転がっていったボールペンを追う。
私が手を伸ばす前に、彼の大きな手が、その華奢なキャラメル色のボールペンを拾った。
「ありがとうございま、」
「……あいつ。本庄要となんかあった?」
「――――え?」
不意にボールペンを手渡す神宮司さんを見上げると、私の手中からするりとキャラメル色の軸が弧を描いて落ちて行った。