カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
マリンブルー


「もう、憶えてません。いつぶりなのか……」


そう呟きながら見た車窓からは、だんだんと緑が多くなったあと、一面の青が広がった。


「俺も。大学のとき以来かなぁ?」


正面を向いたまま、昔を思い出すように神宮司さんが答えた。

あのあと、「近くに車、停めてるから」とドライブに誘われるがまま、思いつきで海を眺めに来た。
もちろん、二人きりで。

曲がりくねった道を過ぎ、海辺の駐車場でようやく止まる。


休日で、人が溢れてるかと思ってたけど、そうでもない。
それもそのはず、夕方にもなれば、ほとんどの人が帰り支度するわよね。


「降りる?」


運転中はお互いに目を合わせず、ぽつりぽつりと会話をしていたから、数時間ぶりに顔を合わせるとなんだか緊張する。


だって、これ、デートなんでしょ?
ただの先輩後輩として、だったらこんな緊張感、絶対感じないのに。


いつもは威勢のいい返しをするのに、今に至っては別人のようにおどおどと答える私。


「あ、はい……せっかくですし、ね」


ニコッと笑って、神宮司さんが車外に出るのを、追って自分もドアを開ける。


わ……潮の香り……。
いつもは排気と煙草の臭いや、インクや鉛筆の匂いの中で生活してるから。

ああ、でも最近別の香りもよく遭遇する。
香水の香りと、自然な太陽のような匂い――――。


「ギリギリまで行ってみっか」
「あ、はい」


背丈のある神宮司さんは、足が長い。
その歩幅に追いつくように小走りで背中を追うけど、砂浜にパンプスって、どう頑張ってもまともには歩けない。

砂に飲み込まれながら数メートル歩いただけで、よろけて転んでしまいそう。

一面の砂のキャラメル色で、さっきのことをつい思い出してしまう。


『本庄要となんかあった?』


< 108 / 206 >

この作品をシェア

pagetop