カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「今まで一応、ちゃんと好きで付き合ってきたけど。でも、のめり込んだりって、ほんとそんなないかも――――なのに」
急に表情が変わった。
だけど、この神宮司さんを見るのは初めてじゃない。
残業してた、あのときと、エレベーターの中での彼と同じ――ひとりの男の人。
「嫉妬してる」
真剣な眼差しと、さっきよりも強く握られた手。
場所もオフィスではないからか、余計に別の人みたいに感じて、ドクンと胸を大きく鳴らしてしまう。
「あの時、お前のデスクで名刺をみつけて、嫌な予感がした」
神宮司さんは静かに言いながら、握っていた私の左手をゆっくりと持ち上げる。
そして手の甲を見せるように握り直されると、そっと私の指にキスをした。
まるでプロポーズのワンシーンのような状況に、気恥かしさと動揺とでなにも言えずに、ただ風に揺れる神宮司さんの黒髪を見ていた。
唇が離れると、まだ吐息が手に掛かるほどの距離のまま、私の薬指越しに真っ直ぐと見つめられた。
「俺を逃したら、もうチャンスはないかもしれないぞ」
その言葉はものすごい威力。
ズン、と私の胸に大きく突き刺さる。
だけど、こんなことで本心を晒すような顔をしちゃだめ。
『図星だ』、と、『今の人生に焦っている』、と思われたりしたらイヤ。
『私は私のタイミングで』、『他人(せけん)とは違う』って、誇示しなくちゃ。
もっとおおらかに、余裕綽々な顔で対応するのよ、美雪。
「し……失礼、ね……っ?!」
ツン、と顔を逸らし、触れられていた手を引き抜こうとする。
次の瞬間、逆にその手を力強く引かれて、気付けば広い胸の中におさまって、背に手を回されていた。
「俺にしとけよ」