カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
波の音に混じって聞こえるのは、神宮司さんの鼓動。
その鼓動は決して遅くはなくて、彼の言葉が“本気”だということがわかる。
潮の匂いと神宮司さんの香りを感じながら、非現実的なシチュエーションに次の対応を必死に考える。
でも、ぎゅうっと抱きしめられるほど、思考回路が働かない。
それを知ってか知らずか、神宮司さんの手は緩むことなく、しっかりと私の体を抱きとめる。
――今の私には、突き放す力がない。
結局、自分もよく聞くその辺の女と同じだったってことなの?
『好きだ』と言われればうれしくて、元々特別な好意なんか持っていなかったはずなのに、急に手放すのが惜しくなる。
誰だって、必要とされればうれしくて。
その喜びが、『自分も好き』って感情だと履き違えてしまうことって、きっと珍しいことなんかじゃないんだ。
迷路に迷い込んだままの弱ってる私には、この甘い言葉と力強い手に負けてしまいそうで。
逃げられない程に回されていた手が、ふ、と緩む。
反射的に、神宮司さんの胸の中から顔を上げた。
彼の髪が潮風に乗って靡くように、私の髪も同じく宙を舞って。毛先が口元にくっついたのを、ゴツゴツとした指でそっと直してくれる。
その手はそのまま私の耳に触れ、顔に沿うように添えられた。
「……なんでかな」
「ふっ」と短く、自嘲するように困ったように笑う顔は、今まで似たような表情を見ていたはずなのに、全く別物で。
「こういうの、初めてってわけじゃねーのに緊張する」
神宮司さんの緊張が、その指先から伝わるほどに、自分の緊張感も一気に高まる。