カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「あ。でも、阿部さんはきっと、歳下なんて範疇にないですよね? そんな感じしないですもーん」
それでも、結局は、受け入れる側の問題――要の気持ち次第。
それは私にどうこうできる問題じゃないし、彼が森尾さんを選ぶなら、それが全てっていうこと。
あとは――自分次第。
そこまでわかってるはずなのに、一歩を踏み出す勇気と、その方法を忘れてしまって二の足を踏んでる。そのことに、どうしようもない焦燥感と自己嫌悪を重ねているのよ。
黙り込む私の様子を勘違いして受け取った森尾さんは、鼻歌交じりに、キーボードの軽快な音をあげている。
「終わったぁ」と彼女が席を立つのとほぼ同時に、重苦しい部屋の扉が開かれた。
「お疲れー……お。ふたりだけ?」
「あ、神宮司さん! お疲れさまでーす。みんなはとっくに帰っちゃいましたよ?」
「そうか。なかなか部長に再会出来ないもんだ」
「部長に用事ですかぁ?」
「……いや」
森尾さんに用事を問われて、返答に少し困る顔をした神宮司さんがちらりと私を見た。
その様子を察して、森尾さんが明るい声を上げる。
「あ! じゃあ、あたしはお先に失礼しますので!」
私と神宮司さんを交互に見て、ニンマリ顔をして帰っていく。
……まったく、そういうことについては本当に勘が働く子なのね。
その勘は間違ってないだけに、やりづらくて仕方ないわ。
パタン、と閉まった扉を見届けて、今度は神宮司さんとのふたりきり。そう思うと目の前の仕事になんて集中してられない。
現に、真剣にパソコンに向かってたって、手がなにも動いてないじゃない。
昨日の今日で、神宮司さんがどんな顔をしてここに来たのか。
それを確認するだけでも緊張してしまって、未だまともに顔を上げられない。
だけど……。