カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
デスクの隅に無造作に置いた携帯は、いつ鳴り出しても取れるように位置を記憶してる。
無意識にその位置へ、手を伸ばしかけたときだった。
ピンポーン、と静かな部屋に音がした。
気付けば外は暗く、時刻は18時を回ってる。
彼女の定時はとっくに過ぎてて、でも美雪なら残業をしてるから――。
そんな計算を素早くして、ペンが落ちたことも気にせずに足早に玄関に向かいドアを開けた。
「こんばんは。お疲れさまです、要さん」
ドアの向こう側にいたのは、期待してた人じゃなく、むしろ会いたくないタイプの女の子。
「……こんばんは。なにかありましたか? ええと……」
「彩名です。森尾彩名!」
全体的にふわっとしたフォルムの、甘い匂いをぷんぷんさせた小動物のような女の子。
彼女はあの土曜に、突然ここにやってきた。
聞けばオーシャンの社員で、なにやら「書類関係を持参してきました」と、満面の笑顔で封筒を差し出した。
あの時は寝起きの上、美雪のことがあったから、まったく耳に入ってこなくて……。
名前同様、どんな会話をして、どうやって帰ってもらったか、イマイチはっきり記憶してない。
「森尾、さん。なにか急ぎの仕事でも?」
ドアを完全には開けずに隙間から窺うように聞くと、森尾さんはすごく困ったような、悲しそうな顔になって答える。
「この間……言ってくれたので……」
「この間」? 「言ってくれた」? なにを?
頭が疑問符でいっぱいになっていたオレを、上目遣いで両手を合わせながら見つめる。
そして遠慮がちに言った。