カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「あたし……あなたのファンで……お仕事してるのを少しでいいから見せて欲しくて……。そしたら、要さんが、『また、適当なときに』って。
なので、とりあえず『また』、今日来てみたんですけど……お忙しいです、よね……」
涙目でそう説明をする彼女に、なにも感じることはない。
こういう“女の子”を武器にしたような子は、今までに何人も遭遇してきたから。
ただ、寝ぼけていたとはいえ、その話が本当なら自分にも多少非があるかも、と言葉を発せずにいた。
「だめ……でしたか……?」
森尾さんは消えいるような声で、オレの顔を窺う。
オレは自分に対してのため息をついて俯くと、顔を上げて彼女に淡々とした対応をした。
「ファン、ていうのはすごく嬉しい。ありがとう。だけど、仕事場には必要以上に人は入れられない。ごめんね」
「……うちの阿部さん、て、昔は今と全然違ってた、って知ってます?」
用件を伝えて、ドアを閉めかけたときに、森尾さんがぽつりと漏らした言葉に手が止まる。
美雪が、なんだって?
今、一番敏感なキーワードに、食いつかないわけがない。
思わず閉めようとしていたドアを、また少し、押し開けてしまった。
そのとき、一瞬だけ見えた森尾さんの目つきにはすぐに気がついた。
それでも、その話の続きを聞かずにはいられない。