カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「……じゃあ、これで。さっきの件は――」
「『口外しないで』ってやつですね。わかりました。その代わり、明日うちの会社きますよね? そのときに時間もらえたりします?」
なんで明日の予定まで営業部の彼女が――――ああ、それを言ったら土曜の『用事』もそうか。
誰か裏で繋がってるやつがいるんだな。
「少し、お話したいだけですよー。あ、電話、切れちゃいますよ? ……阿部さんかも」
ものすごい可愛らしい笑顔を浮かべて、楽しそうにしてる彼女に、目を丸くしてしまう。
これは、「Yes」と言わないとまだまだ面倒なことになりそうだ。
「……わかった」
「ふふ。ありがとうございますー。じゃあこれ、あたしの名刺なので」
そう言って、キラキラとした宝石をつけたような爪で差し出された名刺を受け取る。
ふわっとスカートの裾を翻して、巻いた髪を上下に揺らしながら階段を降りていくのを溜め息混じりに見届ける。
美雪も大変だな。ああいうタイプの子を育成する仕事っていうのは。
いや、もしかしたら、自分(オレ)も昔はそう思われていた側だったのかな――。
ふと、電話の音で現実に引き戻されて、急いで部屋に戻る。
携帯を手にした瞬間に、その着信音は途絶えてしまった。
「……まったく、タイミングが悪いな」
他の男に知られたら、だなんて。オレはなにを考えてるんだ。
美雪が傷つくと懸念するフリをして、オレだけの特別にしたいっていうのが本音だろ。
さっきまでの神々しいゴールドの空も、すっかりと暗くなってしまったこの部屋。
オレの心と同じように闇に包まれたようで。
その中で唯一光る、携帯のディスプレイをぼんやりと立ったまま眺めていた。