カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―

まるで耳の横に心臓があるかと思うくらいに、ドクドクとした音がうるさく聞こえる。
たまに通る社員に不自然に思われる、と変なところは気が回った私は、携帯電話を取り出して、緊急のメールでもしているフリをした。


「ところでこの前の電話、間に合いましたかぁ?」


「この前」? ああ、また会いに行ったってわけ……。本当、その行動力感服するわ。正直、今の私は羨ましいくらいよ。


背を向けている方向から聞こえてくる声に集中する。
要の反応は――至って冷静。加えて薄め。そんなちいさなことで安堵してる私ってどうなの? こんなふうに盗み聞きして。


「……“カノジョ”、だったりして?」
「……いや」
「違ったんだぁ。そっかー……要さんて、今、お付き合いしてる人っているんですか?」


そんな森尾さんの少しトーンを落とした声に、ドキリとする。


その質問に、どんな答えが返ってくるの……?
いや、『どんな答え』だなんて、決まってるのに。私の名前なんて、120パーセント出てこないことくらい――。


耳を塞ぐことも出来ないで、その場に隠れて息を殺す。
要の声が一向に聞こえてこないまま、森尾さんの声だけが私に届く。


「じゃあ、質問を変えてみますね。要さんの今までのカノジョって、若めで可愛い子ばっかりってウワサを聞いたんですけど」


私に言ったようなことを、まさか本人に言い始めるなんて。
驚いて、思わず柱の陰から視線を向けてしまった。

すると、森尾さんが私に気付いて、意味深な視線を返してくる。
そしてさっきよりも少しトーンを高めに、ゆっくりとピンクの唇を動かした。


「だとしたら……たとえば、30を越えた、ちょっとプライド高いようなデキル女の人とかって、守備範囲外……ですよね?」



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