カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
なかなかそういう仕打ちは出来ないわよ。本当、小悪魔通り越して、結構な悪魔ね。
驚き過ぎて怒るのを忘れて、むしろ称賛してやりたくなる。
そして、その言葉を受けた要が、一体なんて言うのか――――。
ここまで聞いてしまったんだから、腹を括るしかない。
きっと、こんな、人のことを盗み見てる私に下った罰ね……。
柱にぴたりと背をつけて、少し仰ぐように顔を上げると、目を閉じてわけもなく祈った。
やけに静寂に感じたときに、広い空間だからか、まるで奏でられるように要の声が聞こえてくる。
「苦しんで、頑張って――ずっとなにかを乗り越えてきた彼女は、年齢とか関係なく、やっぱり綺麗だと思うよ、オレは」
要の言葉に目を開ける。
そこにはサンシャインイエローの高い天井と、丸く象(かたど)られた穴から電気が光っていたのが見えた。
「……本気ですか、それ」
森尾さんの一気に落ちた声に、天からまた後方へと意識を変える。
彼女の問いに、要がまた口を開いた。
「“綺麗”とか“可愛い”とか。そういうのと“若さ”はイコールじゃないし。もっと言うなら、見た目が綺麗だからって中身もそうとは限らないでしょ」
そうだった。要ってそういう話し方をするやつ。
「こういうオフィスロビー(ばしょ)で、そういう話を平気でする女の子は、ちょっと考えるな」
いつでもちょっと優位にいるように、だけど高圧的じゃなくて、物腰の柔らかな話し方。
さらに、上手(うわて)をいくような言葉を連ねて、相手を閉口させる。
「……っ、『口外しないで欲しい』って言ってきたのはあなたでしょ? いいの?」
あからさまに頭に血がのぼった森尾さんの言うことが理解できなくて首を捻る。