カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「口外しないでほしい」って、なに?
もしかして要は、森尾さんになにか弱みでも握られてるっていうの?
でも確かに、なにか切り札みたいなものがなければ、わざわざ要が森尾さんと話す機会を設けるなんて考えられない。
一体なにを――……。
「阿部!」
「……?!」
すっかり要と森尾さんに意識を囚われていたから、横に人が近づいてきていたなんて、全く気付かなかった。
あまりに驚いて声も出せず、目を見開いて振り向く。そこに立っている、私を呼んだ人物を見てさらに目が大きくなった。
「よかった! すぐ見つけられて――」
「ちょっと、静かにしてて!」
私は咄嗟に口を押さえて小声で言うと、そいつも柱の陰になるように引き込む。
「なんだよ?!」という反論も、『絶対声を出さないで』とキツイ目力で黙らせた私はゆっくりと手を離した。
そして、二人の様子をまた窺おうとしたときに、要の声が耳に届く。
「――いや。……きっと彼女なら、もう心配ない。今までそうやって生きてきた女性(ひと)だ」
苦笑したような声が聞き取れると、どんな顔をして喋っているのか想像する。
「それはきみもわかってるんじゃない? だって、一番近くで仕事、してるんでしょ」
「一番近くで仕事をしてる」って……。
森尾さんの近くと言えば、デスクの配置からは別の社員が3、4人いるけれど、そんなこと要が知るはずもない。
でも、私が彼女の指導係っていうことも、話題に上ったことはないけれど……。
だけど、やっぱり、なんとなく直感で。
私のことを言ってる――?
「まぁ、あとは“若くて可愛いイイ女”がどう判断するかに任せるよ」
深刻そうな雰囲気が一転したように、またいつもの優しい口調に戻った要はソファを立つ。
その瞬間に、私も隣の男の腕を引いて、素早く外に出た。