カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
――そういうこと。
あの梨木の言葉で合点がいった。
さっきのロビーでの要と森尾さんの話――「口外しないで欲しい」っていうのは、知られたくなかった私の過去(こと)。
ガチャ、とドアを開けて部署に入ると、すでに戻っていた森尾さんの背中をみつけた。
だけど、なにを、どうやって彼女に言えばいいの?
私のことはたまたま梨木が口を滑らしただけだし、それを半ば脅しのように利用したっていうのも、私が盗み聞きしたからわかったことで。
聞いていたことは森尾さんも気付いていたけど、堂々と彼女になにかを指摘するような立場にいない。
そう思えば、こんなところで彼女に言う言葉なんて思いつかない。
それに、要ももう別に、気にしてないみたいだったし――。
『きっと彼女なら、もう心配ない』。
本音はやっぱりわからない。
努力して、乗り越えてきた私を『綺麗』だとも言ってくれてた。
だけど、その言葉は、『もう大丈夫だから、オレは関係ない』っていうふうに聞こえてしまった。
ぼーっとしたまま、自席の前で立ち尽くしていると、横から声を掛けられる。
「阿部さん、ちょっといいですか」
ひとり悩んでいると、その悩みの張本人の森尾さんが私を堂々と呼び出した。
彼女のあとをついていくように、今来たばかりの廊下に逆戻りをする。
人気(ひとけ)のない、つきあたりの方まで着くと、森尾さんが足を止めた。