カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「……どうかした?」
「ボールペンが……」
あの日落としたから……。壊れてインクが出なくなったんだわ……。
グリグリと手帳の隅にペン先を滑らせてみるけど、そのページは白いまま。
「はぁ」と溜め息をついて諦めたとき、視界にスッとオレンジブラウンのボールペンが入ってきた。
「コレ。使っていいよ」
「……ありがとう」
そのペンは見覚えのあるペン。
私が要と最初に出逢ったきっかけの、木軸のボールペン。
今でも鮮明にその光景や会話が思い返されてしまって、受け取ったペンをしばらく眺めていたら、要がクスッと笑った。
「そんな、メモを取るほどの伝言じゃないんだけどね」
「え? あ、じゃあ、コレ……」
「いや……今、行く先で使うんじゃない?」
一度返そうとしたボールペンを要は受け取らずにそう言って、くるりとまた背中を向ける。
そして私を見ることなく、神宮司さんに宛てた伝言を続けた。
「『誰も、他人のことなんかわかんないし、オレだって知れたらどれだけいいか――』」
――それって、なんのこと……?
仕事のことじゃなくて、もっと別の――……。
「……彼女(クライアント)の理想とオレは、違うかもしれない」
ねぇ、要。顔、見せてよ。
いつもみたいに、飄々と私を掻き乱すようなこと言って、生意気に笑いなさいよ。