カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
チェリーピンク


『今日、絶対一人で帰んなよ。これ、命令』

そう言われた私は、先輩の『命令』を忠実に守って、神宮司さんの迎えをロビーで待つ。


……本当はこのロビーにも来たくなかったけど。
でも、そんなこと言ってたら、もう私にはいくところなんかなくなってしまう。
要の影を感じるところを避けてなんか、限界があるんだから仕方ないじゃない。


チョコレート色のソファを横目にして、ちらほらと退社する社員を眺めながらそう思う。


「よう。待たせた?」
「わっ……な、なんでそっちから……」
「いやー最近階段使うようにしてんの! 誰かさんに『太った』って言われたからなぁ」
「え……」


それは神宮司さんを再会したときに言った自分の言葉だ、と気づくと気まずくなる。
固まった私をみて、神宮司さんは笑って肩を叩いた。


「なーんて。エレベーター乗り損ねたから。待たせて帰られたら困るし」


神宮司さんの明るい雰囲気に、「はー」っと胸を撫で下ろす。
こんなふうに落ち込んだり、気が晴れないときには、その明るさにほんの少し笑顔が貰える。

でも――。


「あの、神宮司さん」
「ん?」
「やっぱり……今日は、その……気が乗らないっていうか」


誰かと食事をするとか、本当そういう気分には到底なれなくて。
きっと会話も乗らないし、嫌な気分にさせちゃうし。


「きっと、あの涙の理由(わけ)って、あいつなんだろ」


こういうとき、どうすることが正解なの?
笑ってごまかす? 肯定する? それとも、このまま黙秘する……?

だって、神宮司さんに言わなければならないわけじゃないし。
そりゃ、あんな場面見てしまった側は気になるところなんだろうけど、今は他人のことまで気に掛ける余裕なんかない。


神宮司さんを見つめたままでいると、突然神宮司さんが突拍子もないことを口にする。



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