カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
――あの彼が、“KANAME”……。
すでに見えなくなった姿を思い返して、心の中でつぶやいた。
真っ白なシャツからのぞく、白い腕。
首筋を辿って見ると、綺麗な顔と、その顔立ちに似合うアッシュグレージュのふわりとした髪。
ちらっとしか見えなかったけど……結構若いんじゃ……。
「実物初めてみたぁ!」
「確か、28だっけ?! 話してみたーい」
……28。やっぱり歳下か。
また別の女子たちが話をしてるのを耳にして、歳下と言うことに納得する。
このくらいの歳になると、例えば美容室や買い物に行ったときについてくれた店員がほとんど歳下だったりする。
前までは、歳上ばかりで、大人な感じを抱いては憧れの眼差しを向けていたりしたものだけど。
だんだんと、特に女性は寿退社とかで第一線から退いて、また若い子が多くなる。
ああ。今はそんなことどうでもよかった。
軽く頭を振って、再び思考を元に戻す。
そう、さっきの“KANAME”。
いくら職業がデザイナーで、歳も20代だからって、こういう場にはふさわしい格好っていうものがあるんじゃないわけ?
見た目じゃなく、大事なのは中身。とか言ったりしてる人もいるけど、私はやっぱり、見た目とか第一印象とかを重んじたい。
頭が古いとか固いとか、陰で言われてることもあるみたいだけど、それが“私”
なんだから構わない。
カツカツと靴を鳴らして、今しがた行ってしまったエレベーターを待つ。
きゅっとカバンを握ると、エレベーターの扉に映る自分の姿を見る。
――大人になるって、こういうことよ。
ポン、と音が鳴り、私の姿を二つに分けながらドアが開く。
空になっていたエレベーターに、いつものように背筋を伸ばして乗り込んだ。