カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「無理にとは言わないけど。本当は俺だってこんな危険なことしたくなかったけど、勢いで来ちまったしな」
「い、『勢い』……」
「まぁ、でも、早かれ遅かれ通る道だと思えばいいか」
楽観的で、でも、どこかプラス思考。そんな彼の行動に心底驚かせられる。
タバコを持つ手に、今度はライターも手にすると、それらを少し遊ばせるようにしながらなにかを考えてる。
その指の動きに目を離せずにいると、ピタリと手が止まった。
「――――30分。30分、ここで待つ。もし、30分経ってもこなかったら……諦めるよ」
見上げて見えた神宮司さんの瞳は、まだライターに火を灯していないというのに、ゆらりと炎が映し出されたような錯覚に陥る。
ぎらぎらとしてるわけじゃなく、静かに、でも熱く感じる火が。
「でも、もし、俺がいるときに戻ってきたら」
その夜に煌めく瞳に吸い込まれる。
「離さない」
その言葉には一種の魔力を持つように。
体には一切触れられていないのに、身体のもっと奥を鷲掴みにされるような感覚。
そこまで言われて、すごすごと尻尾を巻いて逃げるほど、私だって落ちぶれてないはず。
そう自分を奮い立たせて、路地の奥に佇むアトリエを見つめる。
これだけ引っ張ってこられたからには、行くしかない。
「神宮寺さん」
「ん……?」
「意外に不器用?」
「……お前。この期に及んで、言うことはそれか」
ポッと赤く光ったタバコを口から離し、溜め息と一緒に紫煙を長く吐きながら言った。
白い煙の向こう側にある神宮寺さんを見据えて答える。
「私もですから」
半ば無理矢理、覚悟を決めさせられた私は、神宮司さんを横切って前へと進む。