カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
どんどんと近づく建物に、色々な感情を入り混ぜながら。
苛立ちの赤、悲しい水色、さみしい白、恋しいピンク、迷いのグレー……感情の色が心のパレットにおさまり切らないほど、ぐちゃぐちゃに混ざり合って。
とどのつまり、顔を合わせて第一声になにを言うかなんて、こんな短時間じゃ考えられないってこと――。
『誰も、他人のことなんかわかんないし、オレだって知れたらどれだけいいか――』
ふと、要のあの言葉が思い浮かんだ。
本当……知れたら、どれだけいいだろう。
でも、現実にはそんなこと叶うわけがない。だから――。
何度目かの、アトリエ。下から見上げて、灯かりがついているのを確認する。
ゴクリと喉を鳴らして、重い扉を開けた。
階段を、静かに昇って行き、正面にドアをみつけて足を止める。
深呼吸の後に、人差し指をインターホンにかける。
この指であいつに触れたの、今となっては夢みたい。
爪の先に視線を向けたまま数秒して、意を決してボタンを押した。
「―――は……い……」
カチャ……と、静かに開かれた錫色(すずいろ)のドアから覗く要の顔が、心底驚いた顔をしてるのがわかった。
「……突然、ごめん……なさい」
「……いや」
……ほら。ここまで来たんだから、思いつくまま口に出しなさいよ。
順序なんて、もういいから、思いつくまま。
自分で自分の背中を押すように思っても、なかなか思うようには口が動いてくれない。
「……オレに会いに?」