カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
重い足取りでアトリエに戻ると、オレの椅子に座ってくるくると弄んでる美央がいた。
回転速度が緩まってから、ぴたりと止めてオレを見る。
「……修羅場―」
「見てたのか……趣味悪いぞ」
「だって、気になるでしょ」
オレが美央に近づくと、美央は席を明け渡し、そこに腰を下ろす。
目の前にはデスクいっぱいに広げられた紙。そして、ペンとペンの削りカス。
「すごい綺麗なひとだったねぇ。カナの彼女?」
その紙をくしゃっと乱暴に集めて、大きなダストボックスにドサッと落とした。
「……もう遅いから帰ったら?」
「えー! 普通『泊っていけ』じゃないの? そこ」
「好きにして」
「帰るけどさっ。大体カナが電話になかなか出ないし、出ても途中で切ってそのままだから、ちょっと心配でわざわざきてあげたのにっ」
ブーブーと文句を言いながら、ショルダーバックを肩に掛け、玄関へと向かおうとする美央にぼそっと言う。
「だから言っただろ。美央は『タイミングが悪い』って」
「はいはい! じゃあまた、“タイミング悪いときに”来るからね!」
バタン、と美央が出て行くと、やっと静かになったと息を吐く。
――スランプ。だなんて言えば聞こえがいいけどな。
短くなったダーマトグラフを、デスクの上で転がすように人差し指を押しつける。
明日、気分転換に買い物でも行こう。
鉛筆や真新しい紙の匂いに囲まれれば、気持ちも落ち着くかもしれないし。
好きなものに集中してれば、思い出すこともないかもしれないから……。