カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「いらっしゃいませ」


時間があればずっと寝ているオレが、今日起きたのは朝の5時。
正確に言えば、ほとんど寝てない。

ベッドで数えきれないくらいに寝がえりをうち、結局落ち着かなくてアトリエに移動して。
だけどそこでもイマイチ集中しきれずに、デスクに突っ伏した。

そうして今、初めてかもしれない。お店の開店と同時に入店するのは。


今やインターネットでも買い物出来る時代だけど、オレはやっぱり直に足を運ぶのがいい。


通い慣れたこの店の2階がオレの聖域。
老舗っぽい店の雰囲気はもちろん、品揃えの豊富さに夢中になった。そんなこの店は、上京して出会ってからずっと、“ファン”だ。


まだほとんど客のいない店内を歩くと、やたらと目立ってるのか、「いらっしゃいませ」としきりに声を掛けられて妙に気恥かしい。

軽く会釈をするように店員を横切って、いつものスケッチブックを2冊手にした。
そしてペンが並ぶ売り場へと移動し、端から吟味する。

気になるペンは指で撫でるようにして、それぞれの特徴を見て行く。

その流れで、いつものペンに辿り着く。
柔らかな、太めの芯のダーマトグラフだ。


ばあちゃんが生きてたらびっくりするかもしれないな。『今はこんなにカラフルなの』って。


「ふ」と、小さく笑って目的の色を目で探す。

だけど、いつも並んでいた場所に、そのペンの姿は見えない。



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