カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


姿勢を気にしてお腹を引き締めながら優雅に歩く。

心はどちらかというと、そんな満たされたものじゃないけど、だからこそ外から見た自分はせめて充実しているように見せたい。

もう染み付いてるそんな見栄を張って向かう先はいつものところ。

喫茶店に辿り着いて、温かいコーヒーを口にする。


「今日もようやく終わった……」


カップの中で小さく波打つ黒い水面に視線を落とす。
華奢な取っ手から人差し指を外すと、その手で頬杖をついた。


この先この日常が変わる日がくるのかな。

都合良くいい人が現れて、付き合って。一年くらいしたら結婚を意識して。
仕事も辞めて、専業主婦をそれなりに楽しんでる時に妊娠が判明して……。

そんなふうなありふれた未来を生きる自分が想像出来ない。



「いらっしゃいませ……あ」


「あ」ってなによ、「あ」って。


自分の人生設計を考えようとしたときに、そんな気の抜けた店員の声に一人突っ込む。
そして今、来店して、「あ」と言われたであろう客の足音がカウンターに近づいてくるのを感じた。

振り向いて見てしまったら、あからさまにその人を見てるとバレてしまう。
私は頭はそのままでカップに手をかけると、チラッと右に目だけ動かした。

少し高めのカウンターチェアは、隣に立つ人の、ちょうど胸のあたりを瞳に映す。

視界に入ったのは、真っ白なシャツ。
体つきからして、どうやら男だ。

そのシャツから上は見ることが出来ず、私は手元のコーヒーに視線を落としてカップに口づけようかとしたときだった。

先ほどの店員が、何かを手にしてカウンター内を歩いてきた。





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