カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
ボトルグリーン


どんなときも、どんなに打ちのめされても。
仕事があるというのは、ときに酷でときに救いだ。


週末の金曜は週明けの月曜の次くらいに忙しい。
その忙しさに救われる人は、きっと世の中で私だけじゃないはず。


少しの休憩も挟まずに、次から次へと営業先をまわる。

ちょうどお昼をまわったときに、足を踏み入れたのは弐國堂。
そこでも無心になって、品出しや発注書を抱えて店内を歩く。


「あ。こんにちは、お疲れ様です」


背中に掛けられた声に、どこかほっとして一息つくように振り向いた。


「お昼は終わったんですか?」
「いえ……まだ」
「そうなんですか? いいんですか?」
「ええ。暑さのせいか、あまり食欲もないから」


適当なことを言いながら手元を動かし続けると、私の横に並んで、神野さんも在庫を確認していた。


「確かに、毎日暑いですよね。私も毎晩、寝苦しいですもん」


私の寝られない理由は、今やそれだけじゃない。
なんて、そんなこと口が裂けても言えない。


「不思議ですけど、やっぱり涼しげな色を見ると、少し気が紛れます」


何気なく言った神野さんの言葉に、今の私が瞬時に思い描く色。


「こういう、グリーンとか、ライトブルーとか」


昨日、“もう忘れて、以前の自分に戻ろう”と決めたのに。


「あ……そういえば」
「え?」


神野さんがなにか言いかけたところで、ポケットの中の携帯が音を上げた。
着信が電話だと悟った神野さんは、ニコッと目で合図をして、その場から去ってしまった。

ディスプレイを確認して、電話をとる。


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