カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
『もしもし?』
「はい」
『今、メシ?』
「……いえ。出先ですけど」
『……やっぱそーだよなぁ』
ほんとは電話を取る直前までドキドキとした。
神宮司さんから、いつ、アクションがくるかと思ってたから。
でも、電話口の向こうの彼は、昨日の今日でも普通。そういうところが、“うまい”と思う。
「急用、でした?」
ぽつりと聞くと、少しばかり無言のあとで神宮司さんが言った。
『超急用』
「はぁ。その話し方だと違うみたいですね」
どんな状況でも、笑いをとれる神宮司さんは、やっぱり先輩で、兄的存在なのかもしれない。
つい、くすっと笑いを漏らし答えたあとに、突然、真面目な神宮司さんになる。
『気が変わらないうちに、先手を打っておかないと』
「……なんですか、それ」
本当、いつの間にかいつも神宮司さんペース。ていうか、それは昔から、か。
「気が変わらないうち」だなんて、人間そんな簡単に気が変わったりなんて……。
目の前の青いペンを見て、受話器の音が遠くなる。
『――な。……おーい、いいな?』
「えっ?」
『お前……話、聞けよ』
「……お言葉ですけど、今、仕事中なんです。私用の電話は手短に」
神宮司さんの声に引き戻された私は、いつものように嫌味を含んだ言い方をした。
すると神宮司さんは笑って言う。
『はいはい。俺が悪ぅございました! じゃ、夜な』
ピッと切られる直前の言葉に、耳から離した携帯に視線を落とす。
「夜な」? まさか、また強引な誘い……。
最近よく続く、こっちのことは二の次みたいな強引な誘い。
神宮司さんも、要も。最近の男って、草食が増えてるような話題を耳にしたりするけど、嘘ね。
携帯をポケットに入れ、腕時計を見ると、もう1時になりそうだった。
さすがに朝昼抜きは体にも肌にも、頭の回転も良くないわ。
軽く食事とってから、残りの店をまわって戻ろう。
スケジュールを立てなおした私は、やりかけの仕事を手早くこなして店を出た。