カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―


「おー、お疲れ!」
「あ、はい。お疲れ様です」


神宮司さんが営業部に乗り込む前に、あのあと自ら待ち合わせ場所を外に指定した。


毎回毎回部署にこられても、いくらなんでも周りの目もあるし、なにより森尾さんの冷やかしの目ったらないわよ。

なにを考えてるのかわかんないけど、あれから森尾さんは急に“いい子”になったっていうか……。なんでか“友達”みたいな雰囲気を出してくるから参る。

別に、私とあんたは友達でもなんでもないし、“あたし、一肌脱ぎました”的な顔されても、全然そんなふうに思ってないし。

まぁでも、この間までみたいに牙を思い切り剥かれるよりはよっぽどマシってとこね。


「どうした?」
「いえ。なんでもないです」


森尾さんを思い出して難しい顔をしていた私に、神宮司さんが覗きこむようにする。


仮にも先輩なのに、そのままの顔で「なんでもない」って言い切る私も後輩としてどうなんだろう。

でも、神宮司さんって、こういうの許されるし、やっぱり気楽だし。

だったら……だったら、いいんじゃないの? そのまま前に進んでも。

そんなふうに考え始めたのは、眠れないまま迎えた朝方あたりから。
だって普通に想像の範囲内だし。

付き合ってもこんなふうに同じ時間を過ごして。
ケンカという大きなケンカもなさそうだし、かと言って、なにかを我慢するわけでもないと思うし。
一緒に生活をしたとしても、たぶん、私の言うことを、神宮司さんが“仕方ないな”って苦笑して「はいはい」とかって聞いてくれて。


――なにひとつ、問題ないじゃない。それで。



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