カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
だから、私は決めたのよ。
これから先は、神宮司さんと並んで歩く、って。
「今日、食いたいものは?」
「じ――」
「『神宮司さんの食べたいもので』」
さりげない質問に、無意識に答えようとしたことを先取られる。
びっくりした私は足を止め、一歩前に立つ、したり顔の神宮司さんを見上げた。
「……そこまでわかってるんなら、聞かないで下さいよ」
「ははっ。いや、悪い。ちょっと試したくなった。俺の中の阿部とリアルな阿部を」
優しい瞳で私を見る。そんな神宮司さんに、それ以上なにも言えなくなって。
この場をどうやり過ごそうか困りかけたときに、「ふ」っと笑った神宮司さんの大きな手が頭に置かれる。
「んじゃ、行くか。“俺の独断”で」
手が離れても、まだ頭が少し熱い気がした。
けど、そこに意識が向かないように、キュ、と表情を引き締めて神宮司さんの背中を追った。
そのまま向かった先は、バーと同じくらいに久しく縁がなかった高級ホテル。
ホテルの中でも、1、2を争うほどのネームバリューがあるこのホテルに、ガラス張りのエレベーターから外を眺める今の自分の状況に驚く。
そこの15階にスマートにエスコートする神宮司さんにも内心驚いた。
あまりに敷居が高いイメージのせいか、心ではいろいろなことを思い、それを神宮司さんにぶつけたくてもそれが出来ない。
あっという間にレストランの席に通されて、神宮司さんと向かい合う。
メニュー表を呑気に眺める神宮司さんを見て、ようやく話し掛けることが出来た。