カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
組み敷かれた至近距離から、瞬きもせずに見つめられる神宮司さんの紫黒(しこく)色の瞳に、一瞬たじろいでしまう。
――だけど。ペン(これ)は自分に対する最後の警告のようなもの。
そう感じてしまった今、このまま流されるわけにはいかない。
左手をグッと握って、真正面から答える。
「努力して、大抵のものを手に入れてきました」
「……知ってる。だからって、“絶対”手に入るものなんてないと思うけど」
若いころのような自信が戻ってきたっていうわけじゃない。
だから神宮司さんに言われなくても、それはわかってるつもり。
「それも知ってます。そういう思いをしたの、記憶に新しいですから」
「また、泣く羽目になっても?」
私は欲しいものを手にするために努力し続けてきた、阿部美雪。
「――まだ、頑張ってもいませんから」
やるだけやらなきゃ、昔の自分に蹴飛ばされるわ。
「俺がさっき言ったのは、“ここはひとまず止める”って意味だけで、アイツのところには、このまま行かせないかもしれないぞ?」
そう言った神宮司さんは、私の手首を拘束する。
しばらくただ視線を合わせ続けていたけれど、心を決めた私の顔をじっと見て、神宮司さんが「はぁ」と深い溜め息を吐いた。
そして目を閉じると、数秒なにかを考えてから口を開く。
「……俺はいつまでも待たないぞ」
その言葉に似たことは、以前海で言われた。
あのときは、かなりずしんと重みがあって、『この機会(チャンス)を手放したら後悔するのかも』と動揺したっけ。
でも、今は全然そんなことで揺さぶられない。