カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
「ペン(これ)、気付いてくれてありがとう。阿部美雪さん」
な……なんで、私の名前を――。
目を白黒させる私を、彼はさっきとは違う、ちょっと意地悪そうな笑みで見ている。
……なんなの⁈
なんでそんな顔して見られなきゃなんないわけ⁈
明らかに怪訝そうな顔を表に出した私を見て、さらに声を出して笑った。
「ははっ。『なんで名前を?』って思って、そんな顔してるんだよね?」
「……その答えは……?」
「美人だったから」
「はぁ?!」
な、なにこいつ……!
爽やかな笑顔でなに言ってんの? まさかこんな口説き方なんてあるわけないし。バカにしてるとしか思えない!
カチャン、と音を立ててカップから手を離すと、私は“KANAME”を睨みつけた。
「そんな怖い顔しないでよ」
「初対面の女性にあり得ないことを言うからよ」
「だから、初対面じゃないでしょ? 今日オーシャン本社で会ったんだから」
「ほ、ほんとにあの一瞬で……?」
まさか! だって、本当にほんの一瞬すれ違っただけ。
挨拶を交わしたりなんかもしなかった。唯一なにかがあったっていうなら、一度だけ目が合った――気がしたけど……。
目を見開いて彼を見る。
彼はにこにこと、今返してもらったボールペンをくるくると器用に回していた。
「オレ、綺麗なものが好きだから。美人も一度見たら忘れないよ」
“KANAME”はそういうと、私のみぞおち辺りをそのペンで指し示した。
なに? なんのことを言って……あ。
「社員証!」
「正解」
そうだ。あの場所で社員証を首から掛けてたから――。
それにしても、やっぱりあんなちょっとすれ違っただけの時間で読み取るなんて普通じゃない。