カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
自宅へは戻らずに、アトリエの鍵を開ける。
間接照明だけをつけると、真っ先に椅子に座ってペンを取った。
一心不乱に、ただ頭のイメージを腕へ手へ指先へ。
誰の為のものでもない。自己満足のためだけのデザイン。
朝、買い物から帰宅してずっと描き続け――――気付けば、デスクの木目なんか見えなくなるほど埋め尽くされた紙の海。
こんなことしてる暇があれば、彼女に会いに行けばいいのに。
だけど、オレの中でそんな単純なことが単純にはならなくて。
自分の中に渦巻くものや、弱さなんかを全部吐き出して、プレーンな頭で彼女を掴みに行きたい。
オレに才能なんかなくて。
ただ、『好き』だという気持ちだけでここまできた。
その『好き』という気持ちを見失ってしまえば、簡単に失墜してしまう。今回のように。
どうしてあの人がオレを“冷たく突き放す”だなんて思ったんだろう。
彼女はクールだけれど、心の底にはちゃんとした芯がある人間だとわかって好きになったのはオレ(自分)なのに。
「……こんなの、重いかもな」
頭の中のイメージを描き切って、目の前に広がる白い紙に踊る青いインクをぼんやりと見ながらそう漏らした。
苦笑しながら椅子を立ち、今しがた運んできたものを荷ほどきする。
「うわ……」
その懐かしい自分の“作品”を目の当たりにして驚いた。
学生(あ)のときから、オレの“美”の理想って、こうだったんだ。
今度は失笑して、そっと昔の“理想”に挨拶するように触れると、温度なんかないはずなのに、指から熱さを感じた気がした。
上から撫でるように、正面から改めて見つめる。
「『好き』……か」