カラフルデイズ―彼の指先に触れられて―
今までの人生で、自分から『好き』だと告白したことなんてない。
幸か不幸か、そういう状況に立たされる前に自然と女性は近くにいることが多かったし、それよりも大切なのは自分だったから。
ポケットに入れっぱなしの携帯を取り出した。
黒い画面に視線を落とすと、なんの取り柄もなく感じる男(オレ)が映ってる。
――今頃。
もし、あの人……神宮司さんの隣にいたら、どうする?
どうするもなにも、その可能性が極めて高い。
手を離し、諦めるのは案外簡単で。大変なのは、自分を貫き通して何かを得ようとするとき。
それは仕事でよくわかったつもりだ。
仕事でも恋愛でも、相手の気持ちが関係することだから、ただ頑張れば結果がついてくるってわけじゃない、と。
なのに、一度躓いたからと言って、どうして匙を投げるように彼女と距離を置いたんだ。
まして、他の男に白旗をあげるようなことを――――。
いつか、このアトリエに来た時の美雪を見るように、彼女が座っていた椅子まで近づき、触れた。
――瞬間。
ドクッと大きく心臓が打たれる。
昔から、綺麗なものを見つけたときは、ぞわりと鳥肌が立つ感覚が足から頭へと駆け巡る。
彼女の、怒った顔や困惑した顔。そして、動揺し、堪えきれないで涙をひとすじ流した顔。
「……他のヤツになんて見せるなよ」
ギリッと奥歯を噛み、手の中の携帯を握り締める。
「だったら、攻めて攻めて……そんな隙を与えなければいい」
ちょっと、狂愛っぽいかも。
それでもいい。
スッと玄関に足を向けて、飛び出そうかとしたときだった。
静かなアトリエに、インターホンの音が響いて息を止めた。